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2015.09.01
[interview] 立命館大学経済学部 教授 島田 幸司 様

[profile]

2003年 京都大学大学院環境工学専攻博士後期課程修了。1986年 環境庁大気保全局、1988年 愛知県環境部、1990年 環境庁環境影響審査課、1993年 環境庁交通公害対策室、1995年 スイス国際環境アカデミー、1996年 環境庁地球環境部、1999年 環境庁海洋汚染・廃棄物対策室、2000年 環境省地球環境局、2002年 環境省水環境部、2003年 立命館大学経済学部教授、現在に至る。環境経済・政策学会、土木学会に所属。

 

インタビュー概要

行政と学術が連携することで、新たな道が開ける

政策や制度に活用されるような学術研究を目指す

環境問題への取り組みは、他の分野・立場を理解し、さらなる発展が望める

 

Q:島田先生は研究者になる前に環境省の職員としてご活躍されていました。その当時の先生の思いを教えてください。

20年近く環境省で政策の策定に携わってきたことは、経験としても思いとしても、私のベースとなっています。

働いていた当時よく感じていたのは、日本では、行政と学術研究との間にギャップがあることです。行政は目の前の問題を解決しなければいけないため、じっくり考える時間もない中で、かなり大きな決断を短期的に下していかなければいけません。ですから、そのような短い間では、学術の研究成果を政策判断にインプットできず、学術との乖離がありました。

しかし、海外の行政の方々は違いました。地球環境問題を扱うような世界的な政策判断・交渉の場に参加することが多くなって気付いたのですが、交渉に臨んでいる海外の行政の方々が、自身の政策分野に関係なく、地球環境問題について、とてもよく勉強しているのです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表している難しい報告書もかなり理解していました。研究機関と行政との間で積極的にコミュニケーションの機会が設けられていたようです。

このような行政の経験を経て研究者となった今、ただ学術研究に終始するのではなく、国や地方自治体といった行政機関に活用される研究成果を築きたいと思っています。

 

Q:先生がご担当された京都議定書の交渉プロセスの際には環境省で学術研究の成果が活用されたと伺っています。

ええ、そうです。95~98年の京都議定書の交渉プロセスでは、日本はホスト国であったので、国内外へ野心的な高い目標を掲げたいという思いがありました。

環境省はそれまで部門ごとにデータを積み上げて政策判断を下しており、議定書の際も、初めは同様にして目標値を算出しました。しかし、90年比での2010年の削減目標として掲げる十分な値は得られなかったのです。
従来のやり方に限界を感じていたところ、社会全体を包括的に分析できる推計モデルを活用できないかという話になり、研究者の方々と一緒に取り組みはじめました。この連携により算出した値は学術的な理論に裏付けされたため、信頼を勝ち取ることができ、国際的に評価される削減目標を手に京都議定書の交渉に臨むことができたのです。

おそらくここで、日本の環境行政としては初めて、行政と学術との間で連携が生まれたのではないでしょうか。今までにない画期的なことだと思っています。

 

Q: 研究者と行政職員の立場の違いでやりやすさ、あるいはやりにくさを感じることはあるのでしょうか。

研究者となって、やはり意見は言いやすくなりました。しかし、国で20年も仕事をしていたので、はじめは「行政出身の研究者」というイメージを強く持たれていたように思います。徐々に、そんな状況も変わっていきました。今では、せっかく研究者になったのだから自由に活動して、自分の目指す研究をしようという意識に向いています。

行政と研究にはとても大きな違いがあります。それは、行政は流行っているものや時代の波に短期的に乗っていきますが、研究には長期的視野に立った先見性が求められていることです。実践的な研究で肝心なのは、10年後の世の中のトレンドを先読みしながら地道な準備を積み重ね、求められる時が来たときには自分の研究が社会に貢献できるように完成されていることではないでしょうか。

このことに気付いたのは、2005年頃から携わりはじめた滋賀や京都といった地域の低炭素社会に向けた分析がきっかけです。始めは、地球温暖化という非常にグローバルな問題を地域レベルで取り組むことに「どこまで意味があるのだろうか?」と疑問に思う気持ちが少なからずありました。しかし、年月の経った今まさにその論文が国内外で多く引用をされており、現在求められている研究成果なのだと実感しました。これからも、このような先見性のある研究を積み重ねていきたいと考えています。

Q:最近は、どのようなテーマで研究を行われていますか。

最近は、かなり手間はかかりますがフィールドでの実験を行っています。企業や消費者の行動というのはミクロ経済学の理論通りにはいかないので、これまでの経済学の枠に留まらない実証研究をしようという思いから行っています。実際の企業や消費者の行動が環境・エネルギーに対してどのように影響を与えているのか、そのメカニズムを解明し、政策や制度に生かすことができる研究成果をあげたいと考えています。

現在の研究が完了した後には、「電力取引」についての研究を進めようと思っています。固定価格買取制度が成熟した今、再生可能エネルギーの導入量は増えましたが、太陽光・風力発電は気象状況に左右される変動性電源で発電量に波があり、電力市場での需給一致が難しいという問題があります。そのような問題の解決策の一つに、気象条件を考慮した電力の売買を行える「電力取引」があるのではないかと見ています。

 

Q: 先生にとって環境・エネルギー問題について「これだけは言っておきたい」というメッセージはありますか。

私が今意識していることは、分野の違う方とも対等にお話ができるようにすることです。環境の世界にいるとそうではない方々との乖離が生まれがちです。しかし、環境問題を引き起こす社会経済活動の根幹や諸制度をよく理解していないと、本質的な解決に接近できないという思いを強くしています。

例えば、税の話にすると、長年の努力の結果、ガソリン1Lあたり0.76円の地球温暖化対策税という環境税が導入されましたが、これは画期的な前進でした。一方、ガソリンにはすでに揮発油税という、販売価格のおよそ半分を占める税が課されています。このような主軸となる税と比べると、環境税は微々たるもので、消費者の行動変容に繋がるほどの影響を持たないと思われるでしょう。
ここで、専門分野や主張する立場が違えども、主軸となる税の持つ影響や意味と、そこに携わる人々の考えや思いをよく理解しようと試み、その上で私たちの目指す税について議論して組み込むことで、トータルとしては前進することができるのではないかと考えています。

もちろん、税のみならず、あらゆる政策判断・交渉において共通して言えることであり、まだ一般の方々に深く理解されているとは言い難い環境分野に携わる者だからこそ、強く意識すべきことではないでしょうか。

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