E-konzalの小川です。このたび、大島堅一先生(龍谷大学)が編著者を務められた書籍『カーボンニュートラルの経済分析 市場と地域』(日本評論社、2026年5月)が刊行され、私はその第3章「地域のエネルギー資源と電力市場」を執筆いたしました。
書籍について
本書は、カーボンニュートラルの実現に向けて世界のエネルギーシステムが再生可能エネルギー(以下、再エネ)へと大きく舵を切るなかで、日本のエネルギー政策がどこに向かおうとしているのかを、様々な視点から多面的に問い直す一冊です。再エネ拡大の課題やエネルギー安全保障における政府の役割、出力抑制、2030年の電力需給バランス、脱炭素電源のコスト、原子力と核燃料サイクルの費用、さらには地域に貢献する再エネのあり方や再エネ条例まで、全12章にわたって第一線の研究者・実務家が論じています。
– 書名:カーボンニュートラルの経済分析 市場と地域
– 編著:大島堅一
– 出版社:日本評論社
– 発行:2026年5月/A5判・304ページ
– 価格:本体3,400円+税(税込3,740円)
– ISBN:978-4-535-54063-7
担当した第3章「地域のエネルギー資源と電力市場」について
私が担当した第3章では、カーボンニュートラルを実現するエネルギーシステムにおいて、再エネによる電力供給が中心的な役割を担うという認識のもと、電力市場のあり方と、地域に分散して存在するエネルギー資源(DERs:分散型エネルギー資源)が果たしうる役割を、理論と日本国内の現状の両面から整理しました。
電力という財は、「送配電網というネットワークを通じてしか供給できない」「供給量と需要量を常に一致させ続けなければならない(同時同量)うえ、安価に大量に貯めておくことが難しい」という、ほかの財には見られない特徴を持っています。本章ではまず、この特徴がなぜ短期市場・中期市場・長期市場といった重層的な市場の仕組みを生み出すのかを概観しました。
そのうえで、太陽光や風力といった変動性再エネ(VRE)が市場価格に与える影響を、限界費用の小さい電源の導入が価格を押し下げる「メリットオーダー効果」などを軸に説明しています。
本章の核となるのが、太陽光発電・蓄電池・電気自動車・デマンドレスポンスといったDERsの位置づけです。DERsは、①脱炭素化による気候変動の緩和、②エネルギー支出の抑制、③需要家のニーズに応じたエネルギー利用、④災害に対するレジリエンスの向上、⑤電力システムへの柔軟性の提供、という幅広い便益をもたらします。これらを地域で実際に活かすうえでは、DERsを束ねるアグリゲーターの役割や、その柔軟性に適切な対価を支払う市場設計が欠かせないこと、そしてそれらの前提として、需給バランスを的確に反映した電力市場の価格形成が決定的に重要であることを論じました。
最後に、日本の電力市場の価格形成が抱える課題にも踏み込んでいます。2020年末から2021年にかけての卸電力価格の高騰や、寡占的な市場構造のもとで明らかになった旧一般電気事業者をめぐる一連の問題に触れながら、DERsの便益が都市部の一部の主体に集中する「収奪的な構造」を避け、その価値を地域自身が享受していくために何が必要かを、地域新電力の動向なども交えて考察しました。
おわりに
エネルギーシステムの脱炭素化は、単に電源を再エネに置き換えるだけの話ではありません。市場の設計や価格形成のあり方、そして地域がそこにどう関わっていくかによって、生み出される便益が「誰のものになるのか」が大きく変わってきます。第3章が、そうした視点から地域とエネルギーの関係を考えるための一つの手がかりになれば幸いです。
本書全体としても、これからの日本のエネルギーシステムを様々な視点から考えるための充実した一冊となっています。機会がございましたらぜひご一読ください。